2025-04-01から1ヶ月間の記事一覧
あの夜は、静かに終わった。 「ありがと」 「じゃあね」 それからというもの、阿部からの連絡は来なくなった。 瀬奈も、本格的に仕事に飲まれていって、 阿部を思い出すことすら ほとんどなくなってしまった。 「阿部が、普通の人だったら良かったのに。」 …
瀬奈は社会人になっても、時々阿部と会っていた。 というのも、なんの運命なのか、 瀬奈が就職した会社の配属先が、居酒屋バイトと同じ繁華街の事務所だった。 就職を機にあわよくば実家を出たいと思っていた瀬奈だったが、 通勤に2駅という超好条件。 あり…
品川の水族館に行くことになった。 瀬奈は、いつも通り、特別なことなど何もなく、 「品川に行ってくる」と言って家を出た。 阿部と、自転車ではない移動をするのは初めてかもしれない。 瀬奈の最寄駅で待ち合わせて、一緒に電車に乗った。 こんな風貌の男と…
「え、いやだよ。二人乗りなんて。捕まるじゃん。」 「大丈夫だって。いいから乗って。」 阿部は頑なだった。 なんとなく、このまま阿部を置いて駅に向かうのも変だと思った。 夏のぬるい風が吹いていた。 駐輪場から出て、自転車の後ろに乗った。 二人乗り…
阿部は、バイト先の最寄駅から3つ先のところに住んでいた。 瀬奈は、2つ先。帰り道はどうしても同じだった。 瀬奈は電車で通っていたが、 阿部は、晴れの日も雨の日も自転車でやってきた。 そして毎回こう言った。 「一緒に帰ろう!」 瀬奈は困惑していた。 …
居酒屋のバイトは、ちょっとだけ楽しかった。 瀬奈は、お店に来る客にはあまり興味がなかったが、 働いている人たちをつぶさに観察した。 店長は、40歳くらい。下手したら30代かもしれない。 瀬奈に全然笑いかけず、仕事も大して教えてくれない。 瀬奈が任さ…
阿部の彼女、ひなたは、いつにも増して不安だった。 ずっと同じバイトで、3年間一緒にいて、2回も告白してやっと付き合えたのに、 何なの、瀬奈、瀬奈、ってはしゃいでる。 今までも、女子が入るたびちょっとテンションは上がってたけど、 なんか今回は違う…
翌日、特に予定もなかった。暇を持て余すくらいだったら、と 教えてもらった先輩の家に向かう。 別に阿部に会いたいわけではない。そう心の中で繰り返していた。 そこには、同じバイトの仲間が集まっていると聞いた。 この前、朝までカラオケに行ったとかい…
この長い人生で、まっすぐな恋をしたことがあるだろうか。 私は、ない。 申し訳ないくらい、言い切れる。 その人が好きで、愛おしくて、私のものにしたいと思えるような恋、 そんな経験が一度でもあっただろうか。 32歳になるまであと少し。あと数日というと…