阿部の彼女、ひなたは、いつにも増して不安だった。
ずっと同じバイトで、3年間一緒にいて、2回も告白してやっと付き合えたのに、
何なの、瀬奈、瀬奈、ってはしゃいでる。
今までも、女子が入るたびちょっとテンションは上がってたけど、
なんか今回は違う気がする。私にはわかる。
でも、どうしたらいいのかわからない。
ヒロトは私の憧れの人なのに。
ヒロトの大学にだって連れてってもらったことあるのに。
サークルのみんなに、彼女だよって紹介してもらってるんだから。
シフトだっていつも一緒に出してるんだから。
こんな目にあうなんておかしいよ。
瀬奈が入ってきたのは、数週間前。
明らかに居酒屋で働く雰囲気ではない人だった。
黒髪で背が高いのはちょっとうらやましいけど、おとなしそうな人。
それでもうちの店人が足りないから、仕方なく採ったんだろうな。
どうせすぐいなくなるだろうな。
瀬奈は、ひなたからするとそんな風に映っていた。
そう思っていたところ、阿部の様子がなんだかおかしい。
この前先輩たちとカラオケに行った時も、
瀬奈に断られたことをずっと気にしていた。
「ヒロトさあ、どうしたの?今日は行けないってだけでしょ。
ていうか、多分瀬奈さんカラオケとか好きじゃなさそうだよ。」
「そうかなあ。」
「そうだよ、なんかうちらと雰囲気違うじゃん。」
「そうだよなあ。」
阿部のぼんやりした返事に、すうっと気持ちに影がさした。
ひなたは、先輩に話を聞きたくなった。
聞きたいというか、自分の想いを受け止めて欲しいと思った。
いてもたってもいられなかった。
先輩なら、阿部から何か聞いてるかもしれない。
「いや、そうだなあ。なにも聞いてないけどさ、あいつ浮かれてるよな。」
煙草の煙をふうっと下に吐き捨てながら、先輩は言った。
「ひなちゃんがいるのにさ、あれはないよな。」
先輩が私と同じことを思っている。その事実に少しくらくらした。
やはり私の勘違いじゃなかった。瀬奈って女、まじで何。
「ひな、どうしたらいい?」
ひなたは、先輩の言葉を遮るように聞いた。
一瞬、先輩はひなたを見つめたまま黙った。
笑うでもなく、哀れむでもなく、
「そのままでいいんじゃない、みんなひなちゃんのこと好きだし。」と言った。
全然求めている回答じゃなかった。
ひなたは、なんとなく灰皿を見つめたまま頷いた。
こんな目にあうなんて、おかしいよ。