ねごと日記

ラジオときどきPodcast

よしなしごと -- 3

阿部の彼女、ひなたは、いつにも増して不安だった。

ずっと同じバイトで、3年間一緒にいて、2回も告白してやっと付き合えたのに、

何なの、瀬奈、瀬奈、ってはしゃいでる。

今までも、女子が入るたびちょっとテンションは上がってたけど、

なんか今回は違う気がする。私にはわかる。

でも、どうしたらいいのかわからない。

ヒロトは私の憧れの人なのに。

ヒロトの大学にだって連れてってもらったことあるのに。

サークルのみんなに、彼女だよって紹介してもらってるんだから。

シフトだっていつも一緒に出してるんだから。

こんな目にあうなんておかしいよ。

 

瀬奈が入ってきたのは、数週間前。

明らかに居酒屋で働く雰囲気ではない人だった。

黒髪で背が高いのはちょっとうらやましいけど、おとなしそうな人。

それでもうちの店人が足りないから、仕方なく採ったんだろうな。

どうせすぐいなくなるだろうな。

瀬奈は、ひなたからするとそんな風に映っていた。

そう思っていたところ、阿部の様子がなんだかおかしい。

この前先輩たちとカラオケに行った時も、

瀬奈に断られたことをずっと気にしていた。

ヒロトさあ、どうしたの?今日は行けないってだけでしょ。

 ていうか、多分瀬奈さんカラオケとか好きじゃなさそうだよ。」

「そうかなあ。」

「そうだよ、なんかうちらと雰囲気違うじゃん。」

「そうだよなあ。」

阿部のぼんやりした返事に、すうっと気持ちに影がさした。

ひなたは、先輩に話を聞きたくなった。

聞きたいというか、自分の想いを受け止めて欲しいと思った。

いてもたってもいられなかった。

先輩なら、阿部から何か聞いてるかもしれない。

 

「いや、そうだなあ。なにも聞いてないけどさ、あいつ浮かれてるよな。」

煙草の煙をふうっと下に吐き捨てながら、先輩は言った。

「ひなちゃんがいるのにさ、あれはないよな。」

先輩が私と同じことを思っている。その事実に少しくらくらした。

やはり私の勘違いじゃなかった。瀬奈って女、まじで何。

「ひな、どうしたらいい?」

ひなたは、先輩の言葉を遮るように聞いた。

一瞬、先輩はひなたを見つめたまま黙った。

笑うでもなく、哀れむでもなく、

「そのままでいいんじゃない、みんなひなちゃんのこと好きだし。」と言った。

 

全然求めている回答じゃなかった。

ひなたは、なんとなく灰皿を見つめたまま頷いた。

こんな目にあうなんて、おかしいよ。