居酒屋のバイトは、ちょっとだけ楽しかった。
瀬奈は、お店に来る客にはあまり興味がなかったが、
働いている人たちをつぶさに観察した。
店長は、40歳くらい。下手したら30代かもしれない。
瀬奈に全然笑いかけず、仕事も大して教えてくれない。
瀬奈が任されたのは、会計と客の席案内。
レジは他のバイトでもやっていたし、別に教えてもらわなくてもよかった。
ただ、席案内に夢中になると、
客をパズルのように角から順々に案内してしまい、
お店は空いているのにぎゅうぎゅうに詰まった
悲しい席案内をしてしまうことがよくあった。
時々、「空いてるなら、あっちの席でもいいっすか?」と
カップルに言われたりして、ハッとした。
インカムで、案内した席を読み上げる。
「1番、3番、案内してます。」
すると、キッチンからイライラした店長のインカムが入る。
「教えた通りにやってよ、「番」はいらないんだよ、長い。」
どうやら、「1、3、案内」と言えばよかったらしい。
教えてもらったことなんてないけどね。
1年も働かないことがわかっているためか、店長のそんな言葉は
瀬奈のどこにも響かず、とにかくお金のため。
働いて、働いて、だんだん閉店までいることも増えてきた。
阿部はというと、キッチンとホールと、
その日によって忙しいところに入る、スーパーマンだった。
店長の冷たいインカムを聞きつけて、
「ちょっと〜、本当に瀬奈に教えたの?てんちょー!」
と、瀬奈が思った通りのことを言ってくるから、興味深い。
そういえば、あの日から見事な金髪になった阿部は、
薄汚いバンダナで立派な髪を隠しきれず、即店長に捕まっていた。
そりゃそうだろ。また面白いものを見せてもらった。
一応、金髪は禁止なので、即黒染めをするように言い渡されていた。
「わかったわかった、次のシフトまでにね〜。」
阿部はそう言っては金髪のまま出勤し、
ホールに出せないからとキッチンに追いやられていた。
キッチンやりたい人は金髪にすればいいのかもな、と
瀬奈は本当に他人事のように思った。
阿部も、「キッチンやりたいなら金髪にすればいいんだぜ!」と
大きな声で笑っていた。