ねごと日記

ラジオときどきPodcast

よしなしごと -- 5

阿部は、バイト先の最寄駅から3つ先のところに住んでいた。

瀬奈は、2つ先。帰り道はどうしても同じだった。

瀬奈は電車で通っていたが、

阿部は、晴れの日も雨の日も自転車でやってきた。

そして毎回こう言った。

「一緒に帰ろう!」

瀬奈は困惑していた。

私は自転車じゃないんだってば。

それなのに、シフトがかぶる度に一緒に帰ろうと言ってくる。

毎回断って電車に乗っていたが、ある時から、自転車を置いてまで

瀬奈についてこようとした。

ついに観念して、阿部の誘い通り一緒に帰ることにした。

さて、22時まで働いてヘトヘトなのに、なぜ自転車の阿部と

徒歩の私で一緒に帰らなければならないのだろう。

「あのさあ」

駐輪場まで降りて、その理不尽を聞こうとした。その時だった。

「俺、ひなたと別れようと思うんだよね。」

まだ店長の言いつけを破って金色のままの髪が、

バンダナのせいでくしゃっとしている。

それ、私に言ってどうする。

あの小さくて可愛い彼女は、

瀬奈と同じく会計と席案内を任されている子だったので

瀬奈と同時にシフトに入ることがほとんどなかった。

あの金髪事件以来、更衣室で入れ替わる時にちょっと会うくらいで、

目も合わないし、店長同様席案内インカムも教えてくれなかったので、

そのままだった。

「どのくらい、付き合ってるの。」

なんと言い返せばいいかわからなくて、瀬奈は当たり障りのないことを聞いた。

「3ヶ月くらい?」

「なんで、別れちゃうの?」

「いや、なんか元々めんどくさくてさ。2回も告られたし、

 先輩に"じゃあ付き合っとけば"って言われたのもあって。」

「・・・はあ?」

別に瀬奈には関係ないのに、急に怒りが込み上げてきた。

「え、せ、瀬奈?」

「いや、なんなのその無責任。人に言われたから?

 2回告白されたから?人のせいにすんなよ。」

自分でもびっくりするくらい、激しい言葉が出てきた。

瀬奈は、ひなたの可愛いピアスを思い出していた。

あの、まっすぐに、阿部を見つめる瞳を思い浮かべた。

でも、ほんの数秒で沸騰した気持ちも消えた。

うん、何怒ってるんだ。どうでもいいな。

瀬奈は一瞬溢れ出た感情を表情にこめて、阿部の方を見た。

阿部は、黙って斜め下を見ながら自転車をぎゅっと掴んでいた。

ああ、こっからどうやって帰るんだよ。

とっさに、瀬奈は電車の時間を調べようとした。

「待って。」

それを止めるように、阿部は瀬奈の腕を掴んだ。

「後ろに乗って。」

阿部はそう言うと、自転車に跨った。