ねごと日記

ラジオときどきPodcast

よしなしごと -- 7

品川の水族館に行くことになった。

瀬奈は、いつも通り、特別なことなど何もなく、

「品川に行ってくる」と言って家を出た。

阿部と、自転車ではない移動をするのは初めてかもしれない。

瀬奈の最寄駅で待ち合わせて、一緒に電車に乗った。

こんな風貌の男と一緒にいるところを中学の同級生に見られたら、

と一瞬思ったが、驚かれるのも面白いなと思った。

阿部とひなたが結局どうなったのか、知らない。

今も付き合っているのなら、私は悪いことをしているのかもしれない。

だけど、本当にどうでもよかった。

今は何よりも金髪の兄ちゃんのひとつひとつの動作が知りたくて、

発見が欲しくてたまらなかった。

「なんで水族館?」

「デートといえば、水族館っしょ!」

デートって言っちゃってるし。

 

その後も幾度となく阿部の自転車の後ろに乗った。

ひなたが心の支えにしていた、「ヒロトのサッカー」にもついていった。

分かってはいたが、阿部と同じような雰囲気の人が何人もいる、

小さなサッカーサークルだった。

阿部の仲間たちは明るく接してくれるものの、

「なんでこんな地味な子と?」と思われているに違いなかった。

その点ひなたは可愛がられただろうに。

ただ、私たちは何ヶ月経っても付き合っていなかった。

阿部はしきりに「俺の彼女〜」と周囲に話していたが、

瀬奈は、なぜかそこは超えてはいけないと思った。

「彼女」と「観察対象」のままだった。

 

すっかり冬になり、バイトは忘年会シーズンで毎日忙しかった。

それでも阿部は、瀬奈を乗せて夜道を漕ぐ。

「なんで付き合ってくれないの〜?俺といたら楽しいでしょ〜?」

「楽しいさ。」

「じゃあ、彼女ってことでいいよね?」

「いや、それは違う。」

「なんで〜、俺はどれだけ待てばいいの〜。

 まあ、瀬奈らしいけどな!ずっと大好きだよ〜。」

瀬奈は、阿部の背中にもたれかかったまま、真っ暗な夜の川を見つめた。

遠くに輝くビル群が見えた。

私はどこに向かっているんだろう。

一方、近くで輝く電灯は、くすんでぼんやりしていた。

 

「阿部が、普通の人だったら良かったのに。」

 

冷たい向かい風がびゅうびゅう吹いていた。

瀬奈は、自分でもひどいことを言っていると思った。

「ん?なんか言った?」

瀬奈のために、懸命に風を切る阿部には、そんなこと聞こえていなかった。

「ううん、阿部がちゃんと大学を出て、

 私を導いてくれる王子様だったら良かったのに、って言った。」

「う、うるせえ・・・・1年あればちゃんと社会人になるから・・・。」

 

あっという間にお金は貯まり、瀬奈は友人と予定通り卒業旅行に行った。

3月になり、居酒屋のバイトを辞めた。

阿部は、変わらず明るいままだった。

ひなたは、いつの間にかいなくなっていた。