瀬奈は社会人になっても、時々阿部と会っていた。
というのも、なんの運命なのか、
瀬奈が就職した会社の配属先が、居酒屋バイトと同じ繁華街の事務所だった。
就職を機にあわよくば実家を出たいと思っていた瀬奈だったが、
通勤に2駅という超好条件。
ありがたい配属なのだが、ちょっと想像と違った。
そしてその事実を知った阿部は大変喜んで、
しょっちゅうメールを送ってきた。
「今日残業?」
「そうだよ」
「俺22:30上がりだから、迎えに行くよ!」
「いや、いいよ、そんな遅くならない」
「ちぇー、冷たいな!」
阿部は留年生活をなんとしても半年で終えるため、
一応大学には行っているみたいだった。
5年生、さぞかし居心地が悪いだろう、といういじりが鉄板だった。
阿部と瀬奈。「関係」というほどでもないが、
いつまでこの感じを続けるのだろう。
そうぼんやり考える中、瀬奈は久しぶりに観たいと思う映画ができた。
社会人1年目で、学生時代の友人はバラバラになってしまったし、
みんな忙しいタイミングだろう。
一人でもよかったが、なんとなく、阿部が頭に浮かんだ。
今まで瀬奈から何かを提案したことはなかったので、
その話を聞いて阿部はまた大変な喜びようだった。
「やっと付き合ってくれるの!?ありがとー!!」
「いやいや、そうじゃないから。」
平日に、同じ繁華街の映画館で待ち合わせ、レイトショーに行った。
当然、阿部はいつもの自転車でやってきた。
映画は、流行りの恋愛ものではなくしっかりしたホラーだった。
怖いもの見たさもあったが、実際に観てみると想像以上に残虐だった。
瀬奈は劇中ほとんど下を向いていた。
阿部はわりとしっかり観ていたように思う。こういうの大丈夫なのか。
映画館を出て、そのまま帰ることにした。
電車はまだあるが、阿部と自転車、この組み合わせでバラバラに帰ったのは
もう1年近くないことだった。
映画が怖かったせいもある。瀬奈は、初めて阿部に「一緒に帰ろう」と言った。
阿部は、飛び上がって喜ぶかと思いきや、驚いた様子だった。
そしてそのまましばらく突っ立っていた。
あれ、なんか違う。瀬奈はそのことに敏感に気がついた。
数秒変な間があって、阿部はようやく
「しょうがないな〜!怖がり屋さんなんだから!」と言った。
映画のせいとは言わないが、いつものように阿部の背中にもたれかかっても、
何も言葉が出なかった。阿部も同じく黙っていた。
初めて、静かに大きな橋を渡った。