私の住む街は、電波が届かない。
そんな現実と向き合いながらも、なんとか抗っていたとき、ふいにチャンスが訪れた。
九州に住むいとこの家に、ひとりで泊まりに行くことになったのだ。
荷造りをして、パンパンになったリュックサック。
私は出発前日まで迷いに迷い、意を決して、
リュックの底に相棒のラジカセを隠すように入れた。
なんとなく、親やいとこにばれたら恥ずかしいような気がして。
でも私は知っていた。
いとこの住む街は、オールナイトニッポンが聞けるのだ。
そして泊まる日は、水曜日。
小学生ながら、これは運命だと思った。
飛行機に乗り、いとこたちと遊び、
用意してもらった布団に入った。
真夏の夜、外はアマガエルの大合唱。
冷房が効いていたためか、布団の中はひんやりしていた。
こっそりと、持ち込んだ相棒を取り出す。
チューニングする。
スッとクリアに聞こえるポルノグラフィティの声。
それだけのことが素晴らしくて、うれしくて。
この夜のことは今でも鮮明に覚えている。
興奮でほとんど眠れずに迎えた翌朝、
叔母さんが朝ごはんの用意のためキッチンに立っていた。
「おはよう、よく眠れた?」
「はい…おはようございます」
ふと、キッチンから音楽が流れていることに気がついた。
叔母さんは、FMラジオをかけていた。
子供ながらに、「おしゃれだなあ。大人になっても、
私もラジオを聴きたいな」と、はっきりと思った。